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アケビとコスケ

 

「市川裕子のコメント」

8ミリで時代劇を撮るとしたら?という考えから生まれたストーリーです。しかも、出演者は3名のみ。

そして、生み出したものは、カメラワークを駆使した忍者もので、更に、侍ではなく、山賊を登場させました。それは、世間からその存在すら知られない者たちの生き様を描こうと思ったからです。

人里離れた山の中で起きたある小さな事件により、人と人とが触れ合い、擦れ違う。それは彼らのその後の人生に、少なからず影響を与えたかもしれない・・・ということをアクションで表現するストーリーです。

今回、このシナリオを入力するにあたって、古いシナリオを探し出したところ、それが何故か、二種類あったのです。その二つを照らし合わせると、中間はほとんど同じなのですが、冒頭とラストの辺りが少し異なっていました。しかし、この少しの異なりが単なるニュアンスの違いではなく、登場人物の個性が変わってしまうような影響力があったのです。(ストーリーには、ほとんど関係ないのですが。)

ということで、久々に、どちらがよいかを真剣に考えて、冒頭はこちら、ラストはこちら、というふうに一番適切だと思われる方を一つずつ抜き取り、採用しました。

ですから、このシナリオは過去の作品ですが、2014年バージョンということになりますね。

 

 

シナリオ:アケビとコスケ

 

出演  

 

   アケビ…山賊

   コスケ…忍者

   ナギ…コスケの妹

 

 

1   森の道

 

         鍵が一つ、切れた紐と共に落ちている。

         山賊アケビ、登場。

         鍵に気付き、その紐を結び、首に掛ける。至極、気に入った様子。

         その時、ガサガサと物音がし、アケビ、草叢に隠れる。

         忍者コスケ登場。

         うろうろと何かを捜している様子。

         しばらくすると、

         頭の上から紐にぶら下がった鍵がスルスルと降りてくる。

         ハッとして、それをひったくろうとするコスケ。

         だが、鍵は上へ引き上げられ、取ることができない。

         高笑いが聞こえ、見上げるコスケ。

         木の上で、アケビが鍵を弄び、大笑いしている。

 

アケビ「どうやら、捜し物は、これらしいな」

コスケ「分かっているなら、返せ」

アケビ「やだね。これは、俺が拾ったんだ」

コスケ「それは、俺の物だ」

アケビ「証拠が無い」

コスケ「う…」

アケビ「へへっ…この鍵が、何の鍵だが教えるんなら、お前にくれてやってもいいぜ」

コスケ「それは・・・」

アケビ「鍵を開けたら、何が出てくるんだ? 銭の山か? お宝か? 

    話によっちゃあ、分け前をくんねえとな。へへへへ」

コスケ「それは・・・」

 

         突然、大勢の足音が聞こえる。

         慌てて、草叢に隠れるコスケ。

 

忍者Aの声「コスケ。どこだ(小声で)」

忍者Bの声「捜せ。捜せ(小声で)」

忍者Cの声「こっちには、いない。向こうだ(小声で)」

忍者Dの声「手分けしろ。早く行け(小声で)」

 

         去っていく足音。

 

 

2   草叢の中

 

         コスケ、固唾を呑み、窺っている。

         そこへ、木から飛び降りてくるアケビ。

 

アケビ「かなり、どえらい物らしいな。これは」

 

         コスケの目の前で、鍵をブラブラと見せるアケビ。

         コスケ、取ろうとするが取れない。

         ニヤニヤ笑う、アケビ。

 

 

3   森の道

 

         忍者ナギ、走ってくる。

 

ナ ギ「兄さん…兄さん…(小声で)」

 

 

4   草叢の中

 

         ナギに気付くコスケ。

 

コスケ「ナギ…」

アケビ「ほう…」

コスケ「妹だ」

アケビ「へぇ…妹か。あの女と引き換えるなら、この鍵をやってもいいぜ」

コスケ「何だと?!」

 

         コスケ、怒り、アケビに掴み掛かる。

 

ナ ギ「あ! 兄さん!」

 

         ナギ、コスケに気付く。

 

コスケ「ナギ、近寄るな!」

 

         コスケ、剣を抜く。

 

アケビ「おっ! やる気か? おもしれぇ」

 

         アケビも剣を抜く。

         アクション。

         アケビは、荒々しい感じだが、

         コスケのしつこさに、次第に呆れてしまう。

 

アケビ「しつっこい奴だな。もういい。もういいよ」

コスケ「返せ! 鍵を返せ!」

 

         その時、大勢の忍者の足音。

         コスケ、アケビ、ナギ、ハッとして隠れる。

 

忍者Aの声「いない! いない!(小声で)」

忍者Bの声「急げ! 遠くへは行っていないはずだ!(小声で)」

 

         去っていく足音。

         草叢に隠れている、コスケ、アケビ、ナギ。

         しばらく縮こまり、お互いを見合っている三人。

         アケビ、ポイと鍵を放り出す。ハッとするコスケ。

 

アケビ「やるよ。何だか、やばそうな臭いだ」

 

         ナギ、鍵を拾う。

 

ナ ギ「兄さん…扉は、鍵一つでは開かないんですって」

コスケ「何だって?」

ナ ギ「鍵は、二ついるのよ」

アケビ「ハッハッハッ。馬鹿な奴」

コスケ「そんな…うっうっうっ…(泣き出す)」

アケビ「おい、おい。一体、何だっていうんだ」

ナ ギ「…ある仕事に失敗して、父が殺されたんです。

    母は、岩場の洞窟に閉じ込められました。

    私達は、逃げ出したものの、母を助けるために、兄は…」

アケビ「片っ方の鍵だけ盗んだってわけか。ハ、ハ、ハ」

 

    コスケ、大声で泣く。

 

アケビ「馬鹿だな。片方だろうが、両方だろうが、鍵なんか盗んだら、すぐに見付かって、母親の見張りは厳重になるわ、お前達も追われるわ、結局、三人とも皆殺しさ」

 

    コスケ、更に、大声で泣く。

 

ナ ギ「では、あなたなら、どうすると言うんです?」

アケビ「え? 俺か? 俺は、そんな危ねえ橋は、渡らねえな」

ナ ギ「これと、引き換えに、母を助けてください」

 

    ナギ、首のスカーフを捲り、首飾りを見せる。

 

アケビ「ふん…無理だぜ。自分の命が惜しいからな」

 

    コスケ、更に泣く。

 

アケビ「…確か、岩場の洞窟って言ったな。助けることはできねえが、

    ちょっと見てきてやる。待ってな」

 

    アケビ、立ち上がる。

 

アケビ「その代わり、これを貰っていくぜ」

 

    アケビ、ナギの首のスカーフを掴み取り、走り去る。

 

ナ ギ「あ!」

 

    唖然とする、コスケ、ナギ。

 

ナ ギ「大丈夫かしら。まさか、裏切って、私達のことをバラすのでは…」

コスケ「いや、そんな事をするようには思えないが…」

ナ ギ「でも、無理に剥ぎ取っていったわ」

コスケ「でも、首飾りは取らなかった」

ナ ギ「でも、鍵を盗んだわ」

コスケ「でも、返してくれた」

ナ ギ「でも、兄さんを殺そうとしたわ」

コスケ「いや。俺は、戦ってみて分かったのだが、

    あいつは、俺を殺そうという気がなかった」

ナ ギ「…そう言われてみると、確かにそうだわ。

    いくらでも兄さんを殺す機会はあったのに、止めを刺さなかった」

コスケ「…うん」

ナ ギ「信じましょう。信じるしかないわ」

コスケ「うん」

 

    いきなり、二人の首に縄が掛かる。

 

二 人「ヒイッ!」

 

    二人の体が浮き上がり、高い木に吊るされる。

 

ナ ギ「兄さん!」

 

    ナギ、小太刀をコスケに渡す。

    コスケ、その小太刀で、ナギの首に掛かった縄を切り、自分の縄も切る。

    二人、飛び降り、走る。

 

忍者達の声「待て! 待て! コスケ! ナギ!」

 

 

5   森の道

 

    走る、コスケとナギ。

 

ナ ギ「まさか、あいつが…」

コスケ「そんなことはない。きっと無い」

 

    走り去る二人。

 

 

6   草叢

 

    走ってくるアケビ。

 

アケビ「駄目だ! 遅かったぞ。俺が行った時にはやられちまってた。

    …おい! いないのか? くそっ! 何だ。せっかく行ってやったのに。

    岩場の洞窟なんかに行っちまったら、殺されるだけだぞ」

 

    アケビ、足元に、ナギの首飾りが落ちているのに気付く。

 

アケビ「あいつ等、揃って…忘れっぽい奴だな…

    ま、いいか。忘れたのに気付きゃ、また、ここに戻るだろ」

 

    アケビ、首飾りの傍に、長い髪の毛の束を置く。

 

アケビ「しっかり者の妹がいるからな。何とか逃げ切るだろ。無事を祈るぜ」

 

    アケビ、去って行く。

    草の上には、来ぬ人を待つ、首飾りと黒い髪。

 

                              完


 

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