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秋の手紙

 

出演:市川裕子 

スタッフ:監督・石田憲一 脚本・市川裕子

 

この作品は、当時、映像コンペ用に制作しました。「ビデオポエム」に挑戦して、ビデオ○○賞を頂きました。ですから、この作品は、きちんと出来上がっていたわけです。

ところが! ビデオデッキで再生したら、なんと、音声が消えていたんです! 正確に言うと、2トラックに録音していた音声の片方が再生されないんですよ。つまり、現在のビデオデッキでは再生不可能。当時のものは、壊れて処分してしまったので、そういうものを見付けるか、または、業者に頼むしかないのです。

それで、どうしたらいいかと考え、もう一度、音声を撮り直すことにしました。もう一方のトラックは、効果音のみ(同録している車などの音)なので、完全に台詞みたいなポエムを撮り直すということですね。

そこで、また難関。台本が見付からなかったんです! 欠けらもない。ノートなど捨てることなく箱に入れていたのに、この作品に関しては、何一つ残っていないんです。紙に書いて、アフレコしたことは覚えているのですが、その紙を捨ててしまったんですかねぇ…この辺の記憶が曖昧です。

内容は、おぼろげには覚えていますが、全体は覚えていない…というわけで、全部、作り直すことにしました。過去に作ったものを入れるということはせずに、全面的に新しいものにしようと思い、挑戦することにしたのです。

映像では、「私が手紙をポストに入れ、出掛けて帰ってくると、落ち葉の返事が来る」というようなもの。(当時のコンセプト)

それだけは変えようがないのですが、今回は、その辺も見終わると若干違うニュアンスになっています。

多くの年月を経て、私に出された「詩の試験」みたいなものをどう乗り越え、合格できるか?というチャレンジでしたね。

午前中にテキストを書き、午後にアフレコしました。

過去の私と現在の私が出会い、一緒に作品を作るという行為は、滅多にあるものではありません。アナログからデジタルに大きく変動していく中で、懸命に作品を作り上げてきた自分への大きなプレゼント又は、手紙なのかもしれませんね。

     

                             監督のコメントは一番下にあります↓

 

秋の手紙

「秋の手紙」

 

 

風が吹いてきた

私は出掛けなければならない

木々が色付いている

私は気付かなければならない

 

何かが動いている

何が?

もしくは

誰かが囁いている

何を?           

 

私は歩く

 

通り過ぎていく

人と人の間を

鳥の姿

木の姿

電車の姿

空の姿

地面の姿

私の姿

 

見えていて見えていない世界の中で

静かに時を刻んでいる

 

誰かが呼んでいる

私は聞かなければならない

誰かが伝えている

私は答えなければならない

 

音がする

聞こえてくる

声がする

聞こえてくる

 

あらゆるものが移動し

あらゆるものが交わっていく世界

 

行き止まりはなく

循環する空気                

見えているのは

どの風景だろう

 

さて

 

人が自分の場所に帰る時間

もしくは

人がどこか別の場所に移動する時間

瞬きした瞬間に

全てが入れ替わっている

 

私は受け取らなければならない

移り変わる時の姿を

 

copyright  2014 YUKO ICHIKAWA

「監督のコメント」

 

この作品については、よく覚えていないのですが、確かプランはほとんどなしに、歩き回りながら思いつきで撮影していったはずですね。とりあえず意味ありげな、使えそうな映像を適当に撮ってまとめたのだと思います。そのわりには、うまくまとまっている思います。よく覚えているのが、ビデオカメラ。新しいHi8のカメラを買ったのですが、これがちょっと変わっていて、レンズが二つあるのです。一つは普通のズームレンズ。そしてもう一つは、広角レンズです。これがスイッチ一つで撮影しながら切り替えられるので、うまく使うと、あたかも2キャメで撮影しているような効果が得られるのが面白かったわけですが、この作品では電車のシーンで活躍しています。

それから編集であまり苦労しなくてもいいように、編集パターンを想定して撮影していたような気がします。

そういえば、最後の枯葉のシーンは撮影、編集ともにこだわったのを覚えています。落ちるタイミング、飛ぶタイミング、位置、そしてそれらをアナログビデオのリニア編集でつなぐ難しさ。ここだけは何度もやり直しましたね。

実際の撮影は、「適当にやろうぜ!」という軽いノリで始めるわけですが、ファインダーをのぞいた瞬間に「もっとインして!違う!」と、いきなり本気モードになってしまう悪いクセが全開だったような・・・

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