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青春アクションロードムービー

along the river

 

出演:鈴木順 名取浩二 石田憲一 渡辺亮 山本智彦 三浦幸樹 古門圭一郎 市川裕子 稲田芳寛

スタッフ:監督・石田憲一 脚本・市川裕子 音楽・山下誠

 

この作品、自主映画にしては50分を越える大作です。実は当時、私はジム・ジャームッシュ監督の影響で映画を撮りたかったのですが、自主制作のノウハウが全くなかったために、「SHOOTシネマ企画」という自主映画の団体に女優として潜り込んでいました。そうして密かに勉強させてもらおうと思っていたのです。そして同時期に休日のバイトを探していて、たまたま子供ショーの司会をやることになったのですが、そこでアクションをやっている人たちと知り合い、この作品が生まれることになりました。切っ掛けは主演の一人、名取君に「裕子さん、何かやりましょう!」と言われたことなのですが、本人は全く覚えていないそうです(笑)。こうして、念願だった映画制作が実現しました。作品は、「ダウン・バイ・ロー」+「スタンド・バイ・ミー」のアクション版という、すごい取り合わせのイメージで書き下ろしました。特に汗臭くないアクションものを実現できたことには満足しています。

 

                                 監督のコメントは一番下にあります↓

フライヤー・

コレクション

along the river

making (オーディオコメンタリー付き)

監督のコメント

 

<キャスティングについて>

 

そうそう、キャスティングに関しては、基本的に私がやったんですが。実は自主映画において、キャスティングというのは非常に難しい問題をはらんでいるんです。というのも、基本的にギャラは払えませんから、自主的にやりたいという人以外は、お願いして出てもらうということになります。それだけではなく、スケジュールも出てもらうという都合上、先方の予定を優先して空いている時に撮影スケジュールを合わせることも多々あるわけです。その結果、必然的にメインキャストは、予定が空けられる人中心にならざるを得ません。出演シーンの量なども含め、撮影に時間を掛けられる人が中心となるのが自主映画なのです。ですから監督以下、メインスタッフ全員が出演しているというのは、自主映画では不可避であるわけですね。

 

まず主役の鈴木君ですが、じつは市川さんのイメージでは、漠然とではありますが、作品制作のきっかけを作った名取君と渡辺君をメインに考えていたそうです。しかし、脚本を読んだ私は即座に鈴木君の顔が思い浮かんだのでした。しかしこの件に付いては、市川さんだけでなく当の本人も驚いたようで、名取君に至っては「あいつ、芝居できませんよ!」と真顔で心配してくれたくらいです。まあ、本人も「・・・これって、僕が主役ですよね?」と半信半疑でしたから、かなり意外なキャスティングだったようですね。でも、見事にハマっていますよね。

 

それから当時の事務所の仲間にも出演してもらったのですが、私の相手役としては稲田君しかいないということで、最初からお願いしました。しかし、それ以外は後輩の三浦君だけにオファーしたのです。というのもこの時期は、かなり仕事が忙しかったですから。しかし、このオファーの件を聞いた古門君(三浦君と同期)が「俺には話がないけど、やらなくていいのかなぁ!」と、しきりにアピールしていたようで、そのことが私の耳に入り、後に正式に出てくれるようにお願いしました。

 

渡辺君と山本君は、名取君、鈴木君と同じ事務所だったのですが、出演は快諾してくれたものの、スケジュールの都合で、出番が少なくなってしまいましたね。三浦君、古門君もそうですが、本当はアクション要員としての参加ではなく、しっかりとした人物像を描きたかったので、その点については残念な思いがありました。でも、それが自主映画の定めなのです。

 

 

<アクションについて>

 

「コンセプト」

企画当初から、「アクションものらしからぬプロットで、バリバリのアクションを見せる」という、ミスマッチ狙いのコンセプトはありましたから、私も当然そのつもりで準備していました。

ただし他の出演者の反応は様々で、主演の一人である名取君などは、シナリオ配布後の打ち合わせの時に真顔で「これって、ただのケンカですよね?」と言ってきたりして。まあ、まともにシナリオを読めばその通りなのですが、そう言った意味ではシナリオの段階でのアクション的プロットは、ほとんどケンカ程度のものしかなかったことが伺えると思います。そこに大量のアクションシーンを注ぎ込むというのが、コンセプトとしては新しかったわけですね。今でこそTVドラマや映画では、コミックのような演出の一環として普通のドラマの中でもワイヤーで飛ばされるなど、派手なアクションが織り込まれていることも多々ありますが、当時としてはそのような演出は皆無でしたから、早過ぎたとしか言いようがありませんね。

 

「階段落ち」

そういうわけで、シナリオの段階では書き込まれていなかったアクション・シーンもずいぶん追加しましたね。例えば冒頭のアクションも、シナリオでは単なる言い争いだったのですが、それでは物足りないので立ち回りを追加しました。それから階段落ちもそうです。単に出会いのきっかけとしてぶつかるだけのシーンだったのですが、それをわざわざ階段落ちにしたわけです。とはいえ、自主映画という関係上ノーギャラで他の人にやらせるわけにもいかず、自分でやるはめになりました。しかしカメラワークも引きで撮った方がいいのか、それとも寄った状態でズームでフォローした方がいいのか、やってみなくては分からなかったので、結局都合3テークやるはめに。ということは、3回も階段落ちをやったわけですね。さすがに3度目のテークは、体が自動的に痛みを避けてきれいな受け身をしていまして、完全にNGでしたね。

逆に名取君の自転車クラッシュは、危険なことをやらせるわけにもいかず(できないわけではないのですが)、カット割りでごまかしたりしています。

 

「全員そろわなかった中盤」

中盤にちょっとした小競り合いがあります。このシーンは犯人チームと、それを追っていた主人公チームがそれぞれ仲間割れを起こし、橋の上と下で格闘になるというシチュエーションだったのですが、撮影前日に犯人側の主役、稲田君の電話がつながらず参加不能に。仕方なく私が代役となってロングのシーンと、腕だけのシーンなどを撮り、あとで別撮りした本人のショットとつないでごまかしてあります。

そういったわけで、本来は橋の上と下のアクションが同時進行しているというロング・ショットや、上下の移動ショットを撮る予定だったのですが、それは叶いませんでした。まぁ、橋の下の間抜けな闘いは、結構うまくいっているのではないでしょうか。敢えて闘いを見せず、巻き込まれたカメラにフォーカスするというアイデアは、結構気に入っています。結果的に、主人公側がメインになったというのもよかったでしょう。

 

「川を流れる守」

鈴木君が演じた守が、二人と別れ単独で犯人を追っていたところ川に落ち、流れてきた彼を二人が助けたとセリフで説明するシーンがあります。実際は落ちたところも流れているシーンも見せていません。それは作品の中の事実として、転倒して気を失った守を、後から追いかけてきた二人が発見したからで、セリフで流れてきたと言っているのは、戻ってきたことの照れ隠しなのでした。だから守は、シーンの最後で「あれっ?」と言っているのです。これなどはアクション・シーンとして描けそうなところを、あえて見せない面白さを狙った、脚本の時点でのアイデアでした。だから見ている側には、セリフを額面通り受け取り、川を流れてくる守を二人が引き上げている、というバカバカしいシーンを想像してもらってもOKなんですね。事実はどうあれ、解釈はどちらでもいいなんて、ちょっと凝っている表現だと思うのですが。でも、某コンペの審査委員を務めていた某映像作家の人には、「セリフだけでは間抜け過ぎる。川を流れるシーンをきちんと撮影していれなければ駄目だ!」とコメントされてしまいました。ということで、彼のおかげで間抜けさが伝わったということが確認できたわけです(笑)。

 

「逃走」

後半になってようやく市川さんが出てくるのですが、そこから逃走シーンになります。何カ所か全員出演のシーンがあるのですが、それなどはカメラ据え置きで走り抜け、フレームアウトしたら私がダッシュしてカメラを止める、という自画撮り状態。ビデオなら問題ないのですが、何といっても8ミリフィルムは、¥1000/1分というハイコストの世界。無駄なフィルムを倍以上使ったわけですが、妥協しませんでしたね(今なら別のやり方を考えることもできるんでしょうが、この時は無理でした)。

しかもこの時に限って、主演の鈴木君が脚をケガしていて、上手く走れないとのこと。そのへんは、キャラクターを活かしてヘロヘロな走りでOKだったのですが、よく見ると本当にフラフラしているところがあります。あれはマジに走れなかったのを上手くごまかした結果ですね。鈴木君、ご苦労様でした。

 

「オーラス」

オーラスとは、最後のアクションのことなのですが、この時も全員集合できず、カット割りと代役でごまかしています。始まりが何となく臨場感に欠けるのもそのためですね。

アクションが始まり、乱闘から三人が離ればなれで闘うことになるわけですが、この時の人員分配にも自主映画的事情が深く絡んでいるのです。

 

まずは闘いが二手に分かれて、名取君が鞄を持って逃げるのを渡辺君と山本君が追いかけるのですが、この三人は同じ事務所の仲間なんです。だから三人でアクションをやった方がまとまりがいいだろうということで、鞄の奪い合いでチェイスしてもらうことにしました。

それから私の乱闘に絡んでくれたのが、古門君と三浦君で、こちらは私と同じ事務所の後輩。なのでアクションは遠慮なく当てています。といってもパットを仕込んでいますが。二人とも思いっきり派手に飛んでくれていますね。

 

さて、ここでこの時期一番忙しかった古門君は、最初にやられてもらうことになりました。まず三浦君が私に蹴られて飛ばされ、鈴木君と合流。二人で一騎打ちとなります。

そこから古門君と私の短い一騎打ちになり、そこで彼はフィニッシュ。せっかくなので彼にしかできない、スタンドからのバック宙捻りで土手から落っこちてもらいました。どうせだからノーマルスピードとスローモーションでも見せたいと思い、都合4~5回飛んでもらいましたね。本人も納得の飛びができなかったようなので、気が済むまでやってもらいました。

 

そして私と稲田君の一騎打ちへとつながっていきます。彼は私と同期の間柄で、彼が実力者だということは画面を通してもお分かりいただけるかと思います。ということで、二人の死闘はまず4日間連続で撮影しました。ここでも一切妥協なくやっているので、フィルムは軽く三倍くらい回しているはずです。(メイキング動画で確認できます。)あ、ちなみに二人のアクションは全て、市川さんが撮影しているので、よく撮ったと褒めてやってください(笑)。

最後の銀杏の木の下でのアクションは、稲田君が撮影の合間に銀杏の木を見て、「あそこでやりたいよね~」と言っていたのをアイデアとして活かしました。そこでのアクションも別途2日くらい掛かったはずです。

 

鈴木君と三浦君の一騎打ちですが、これは三浦君もこの時期忙しかったということと、鈴木君が脚を痛めていたということもあり、コミカルな闘いに持ち込むというプランで実現しました。ということでこのシーンは一日だけでフィニッシュしなければならず、苦肉の策でもあったのです。後半は夕日の中での撮影となってしまいましたが、時間がつながっていないのは、自主映画的ご愛嬌ですね。この時は、三浦君が手製の筋肉シャツを着けてマッチョな役作り?をしてきたので、後半はそれを活かした展開にしました。間抜けさに拍車が掛かった秀逸なアイデアだったと思います。

 

さて、私と稲田君のフィニッシュでは、なんとリアル・ヒッティング顔面パンチが決め手となっています。そして銀杏の木にぶち当たって倒れる稲田君に、銀杏の葉が舞い落ちるのをスローモーションで見せているわけですが、この時に木に登って葉っぱを降らせているのは私です。で、切り返しで私のショットでは、稲田君が木に登って降らせているのですが、この時に途中で葉っぱを入れたビニール袋を彼が落としてしまい、あわやNGというところでした。その模様はエンディングのメイキングに入っています。画面左に袋が落下する様子が映っています。ちょっと分かりづらいですけどね。

 

 

<技術的なことについて>

 

最後に、ちょっとだけテクニカルなことについて触れておきましょう。

まあ、一番大変だったのは、カメラワークですね。特に編集によるカットつなぎについては、きちんと勉強したことがなかったくせに、分かっているつもりでやっていました。だから、上手くいっているところもあるのですが、完全にジャンプカットになってしまっているところもあります。この点については、気にせず見ていただきたいですね。

それから最後の方で、画面右手にゴミが映り込んでいるところがあります。これ、実は後半のかなりのシーンで映り込みがあり、半分以上撮り直ししたのですが、それでもオリジナルの方がいいシーンは敢えてゴミバージョンを使っています。リテイクは主人公三人のシーンがほとんどだったので、鈴木君と名取君には迷惑をかけましたが、嫌な顔一つせず快諾してくれた二人には感謝です。

しかし、技術的には未熟でも、それに臆することなくゴリ押しで仕上げなければ、作品は完成しない。それが自主映画の宿命なのです。

 

それから個人的には、技術的に未熟でも、ジャンプカットが多くても、芸術的価値には影響しないと考えていましたし、今現在でもその考えは変わっていません。それよりも作品に秘められた自主映画のパワーを丸ごと受け止めてていただけたらと思います。

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