all photograph by YUKO ICHIKAWA
BOLT•DRAGON 海賊本
Photo:Yuko Ichikawa
難破船
制作: 2008年
特徴: コピー紙にボルト。破り取った新聞の文字を詩の言葉通りに、新聞紙に貼り付けた作品。
収録: 1編
絶壁の生命体 傾斜していく地球よ 海の底に張り付いた夢を取りに行こうか
投げ出された肉体の破片 敵は過酷な無情 一切の妥協もなく 一切の哀れみもなく
平等なのか 不平等なのか 容赦のない鮮烈
嵐 波に飲み込まれた帆 最後の綱を握り締めた指に 叩き込む風雨 感情のほとばしりを全身で受け止める
情熱 翻弄される五感 閉じていく平行線 耳の奥で囁く羽音 あの ひとひら 目の前で ちぎれていく
奪い取り ねじ込んだ羅列が 海の底に剥がれ落ちていく
耳の奥に残る言語に導かれ 海の底で見た感情 地球のもう一つの姿
あの時の言葉が思い出せない 海の底に流れ落ちたか 船底に置き忘れたか 言語の形
海 賊
制作: 2008年
特徴: コピー紙にボルト。新聞の文字を破り取り、1ページに1行ずつ、詩の言葉を貼り付けた作品。
収録: 1編
11年目に帰ってくる 無数の傷を受け 惨敗の嵐を潜り まっすぐに帆を下ろし向かってくる 陸に楽園はない
日に焼けた足に 破れた旗がまとわりつく
絶望は希望だ 目に見えているものを粉々に打ち砕き 目的を果たすという目的を焼き尽くす
その未来に 答えはあるのか 欲望は破壊 己の破壊
待つ 天の裁きを受けるまで 地の叫びを浴びるまで
視線を落とす 影ができる 太陽は真上に忍び寄り 落下していく肉体と精神 影が消え 一体化する宇宙
理性と欲望が一体となる瞬間 目を見開く 視界は白い闇 小さな獣が一頭 路頭に迷っている姿
白い影は一瞬通り過ぎ 闇に消える
太陽はどこだ
制作: 2008年
特徴: コピー紙にボルト。詩の言葉を印字した紙に、同じ言葉を新聞の文字を破り取って貼り付けた作品。
収録: 1編
尾とひれを持ち 鱗のある指を額にのせた 空白の思考に 針路を指す
孤島に打ちのめされた流木 磁石は時間の後ろ側で拘束する
無の廃墟を与えられても 世界は作れないはずだ
砂の数を数え 一度失った命を数え 残された月の満ち欠けを数え
照りつける座礁を背にして 待ち受ける 仮面の選択
追想の調べに あの指の感触を探し出す 掻き集めたバラバラな紙片に穴を開ける あの歌声は水平線に漂流する
仮面は鉄でできているのだ 鎧という武器を従えて 立ち上がる 善と悪の象徴
孤島に ひとつの影 翻す 羽根は 白か黒か 錆びた鉄の塊を前にして再生の時を待つ
影は動く 地球とともに
DEAD LINE
EMBLEM
制作: 2008年
特徴: コピー紙にボルト。新聞の大きな文字を破り取り、詩の言葉通りにページにダイナミックに貼り付けた作品。
収録: 1編
地球に ただ一つの勇気があるとしたら それを噛み砕き 飲み込んでも 許されるだろうか
例外のない判決は 全てが終わった後に下るのだ
もし 地球に ただ一つの望みがあるとしたら
それは 生き残るために 絶海から這い上がる残党にも平等に与えられるはずだ
反射する象徴 その称号は 宿敵から与えられた
完璧な舞台に 二人の登場人物が立つ どちらが光で どちらが影かは分からない
もし 地球に ただ一つの歴史があるとしたら それは 繰り返されるのか 刷新されるのか
我が名よ 地球に ただ一つの木の実をくわえた一羽の鳥が舞い降りる
JUDGMENT
制作: 2008年
特徴: クラフト紙にボルト。天からの声を縦書きに、自らの声を横書きにして表した斬新な作品。
収録: 1編
報復ー束の間の栄誉 冤罪ー夥しい恥辱 判決ー我が身か他者か
真実は現実かー真実は反転作用である 運命に従服するかー運命を閲覧す
破滅に殉ずるかー屈辱に執着す 己は何者かー眼前と背後に存在する影の形
標的を例えー不死鳥という仮面劇
表層を脱ぎ捨て 魂に混在する核を見せろ
目に太陽が灯る
報復ー平等の権利 冤罪ー全てに於いて罪は存在す 判決ー我が身で受けろ
飛び立つ言語のない鳥
己は見る
宿 敵
制作: 2011年
特徴: コピー紙にボルト。左綴じに縦書き。印字の文字が大きく、ページが右側から中央に向けて破かれている。
収録: 1編
傾斜する波に滑り込み 目的の意味を聞き返す
敵は待つ 同胞という宿敵 許されない時間を遡り 委ねた夢を奪い返す
夢という うつつ 現実から奪還する希望
笑え 狂おしく肉体を捻じらせた苦悶の微笑み
無表情の痛みから ちぎれていく血を掬い取る
胸倉を掴み 問い質す拳 己は本物か 己の首に巻き付く毒蛇の鰭
まっとうな光が降り注ぎ 高速に時間が流れていく 雲の動き 目を凝らす一瞬
我は我の動きを注視する 目的は略奪 真実という虚の
制 圧
帰 還
制作: 2011年 特徴: コピー紙にボルト。ページが進む度に、詩の言葉の行が少しずつ上から下へずれていく。 収録: 1編
大聖堂の前で倒れゆく影を見る 焼け落ちる太陽を背中で受け 倒れていく肉体を感じる 海に落ちていく意識が 海の底に沈み泡となり消えていく様が見える 己は他者となり 己は敵となり 己は同胞となる
冷徹な眼差しが敵意となり 愛情と激情が重なり合う 純白の滝に落ち 清涼の川を流れ 深遠の海に雪崩れ込む 魂の戦い
敵は見付かったか いいや 敵は間近にいるな いいや 敵は己の中にいるな いいや 何度も首を振り 縛られていく肉体
食い縛っても 吐き出しても 究極の答えなど無に等しい お前の望む答えなどありはしない
人間は何を望むのか 他者は何を望むのか 己は何を望むのか 神は何を望むのか
信じられない光景を前にして 佇む静かなる精神 目的は果たしたよ 目的は広大で 目的は卑小であったよ
もしかしたら目的は無であったかもしれない なぜ生きるのかと問われれば それは 人間なら分かることだと思うよ
神には分からなくてもね 囁きが風と共に吹き抜けた 五十五年後に空を飛ぶ鳥と出会う その時 奴が何と言うのか
既に己には分かっているのかもしれない 遠い記憶と現在の記憶と未来の記憶が交錯する
涙は潮に溶け 愛は砂に溶け 精神は空に溶ける 地球と一体となり宇宙と一体となり人間と一体になる 我は我を抱き締める 熱い太陽の中 真っ赤な太陽を抱き締める ふと幻を見る 不可思議な幻影 もしかしたら奴かもしれない 月影を抱き寄せた男我か敵か同胞か 我は太陽と共に死す 勝利と敗北を抱き締めた男の物語を前にして
制作: 2011年
特徴: クラフト紙にボルト。制圧のイメージで本の中央で綴じ、右側に横書きと縦書きにレイアウトした詩の言葉。
収録: 1編
旗は翻ったか 血と闇の旗 純白の命は波で洗われたのか 引き擦り込まれる あの歌声に
勝利は敗北の証 見事に塗り上げられた太陽の象徴 お前の名が明かす 何者であるかの残響
太陽を背に受けて 立つ者ならば 永遠の幸福を手放す勇気と一瞬の死を選ぶ権利を与えよう
我が名 忘却の彼方に聳える 不可思議な記録
略奪するのは己の夢 希望という絶望のために 命を燃やす肉体
頭文字が背中に刻まれていた 失われた言語を背負い 尾と鰭を持つ肉体に 羽根を括り付けて
幻など無縁 目に映るのは欲望という真実のみ
歌声が聞こえる 宇宙の海から お前の名を呼ぶ
永遠と一瞬のあいだ
制作: 2011年
特徴: ボルト綴じ。クラフト紙とコピー紙を二重にし、ホッチキス止め。透かすと、縦と横の文字で十字に見える。
収録: 1編
銀河に導かれ 水面下で引き分けた 五分と五分の命
己と我の魂か
彷徨いは永遠と 落ちていく星が囁き 飛翔は一瞬と 散り際の波は叫ぶ
真実か
理解は果てにあり いまだ 誰も辿り着けない新大陸よ
理想は 目の中の映像だけに焼き付き 位置は 日の光も月の光も変わらない
変わらない光 我は浴びる 己と共に浴びる 両手を広げ 空から 両足を広げ 地から
海は地となり 地は海になり 私の体内を駆け巡る 永遠は地なり 一瞬は己なり